op ―日常―

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 日曜日、時計の短針は十のところを右回りにずれている。後ろを振り返るとまだデパートに人気は少ないようだ。  午前とはいえ夏休み前の日差しは、この時間で既に眼前に広がる駐車場のアスファルトを揺らすほどの強さになっており、どうにか日陰にいようとする私に、左側、ほぼ頭上から容赦なく照り付けてくる。冷房の効いた屋内に入ってしまおうか、そんなことを思いながら、暑さと汗ばんでしまった体に不快感を覚え、はぁ、と一つ溜息をつく。  もう何度聞いたか分からない自動ドアが開く音が聞こえるが、振り返るのも億劫になってしまった。 「わっ!」 「っひゃ!?」  不意に後ろから抱きつかれ、変な声を上げてしまう。確認するまでもなく、私が待っていた人物、天見愛流だと分かる。そもそも私の知り合いでこんなことするのも、彼女くらいなものだ。 「えへへ、ごめん玲菜。北口と南口間違えちゃった」 「……全く、自分から誘っといて何やってんのよあんたは」  市内最大級のショッピングモール、私たちは雑談を始めながらその中へと入っていった。 「それにしても愛流、その、猫耳? ……それ、何とかならないの」 「ん? ああ、これ? 玲菜もつけてみる?」  そう言うと、自分の頭から、黒い猫耳のついたカチューシャをはずし、私の前に突き出す。 「遠慮するわ。じゃなくて、恥ずかしいからはずしなさいよ……」 「ええー、お気に入りなのにぃ……」  そう言うが、渋々肩にかけていた白いバッグに猫耳を入れる。小学一年生の時からの付き合いだけれど、本当に愛流のファッションセンスは分からない。この前私服姿を見たときは、確か小さく白い翼をあしらったものを背中から肩にかけてつけていたし……。知り合った当初ならともかく、今の年齢でそれは如何なものだろう。 「むうー……」  そう唸った愛流は、チャームポイントだと言い張る前髪から飛び出た癖毛を左手の人差し指と中指でいじっていた。触角を連想させるそれは、虫嫌いの私はあまり好きではなかったが、これは好みの問題だと思い、目を瞑ることにしている。
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