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「あの子には帰る家がないんですの。だから、しばらくは家に……」
パアン、と言う耳を押さえたくなるような大きな音によって私の言葉は遮られる。
「何なの、今のお――」
ふさいだ耳から両手を離し、目を開けると、そこには右手で左肩を押さえ、机に伏しているお父様の姿が見えた。その肩から机にかけて、赤い液体がだらだらと流れているのが分かった。
「お父様!?」
「……逃げなさい、玲菜」
「愛娘への愛情が命取りになるとは皮肉なものですね、所長……」
開け放たれた窓からは、スーツ姿で痩せ型体系の男が、黒光りする何かをお父様に向けていた。
「……っぐ、玲菜、早く逃げなさい」
「で、でも……」
怖くなって腰が抜け、その場にへたり込んでしまう。 男が窓から部屋へ入り、私から見てお父様の右側に来るのが見えた。発砲音が知られたのか蛍子さんやその他のメイドたちが、ノックの返事も待たずに入ってくる。入って来た何人かはその光景に悲鳴を上げ廊下に出るが、蛍子さんはへたり込んでいた私の腕をとり抱えると、書斎から廊下へと連れ出してくれた。
騒ぎを聞きつけたのか、ばたばたと大きな足音が二つ、こちらへ向かう。廊下の角から出てきた二人の姿にちょっとだけ安心する。ひかるは杖を持ってきていた。
「玲菜ちゃん! 大丈夫ですか!?」
「え、ええ。でも、お父様が……」
私が言うと、二人は書斎の中を見る。書斎の光景を見た二人は驚いたような表情、いや、ひかるの方はこの事態になってしまったことを悔やむような表情だったが、口に両手を当てて目を見開き、まさしく驚いていると言う表情だったのは愛流の方だ。無理もない。拳銃を持った男と、撃たれた男が今まさにそこにいるんだから。
しかし、愛流の口から出た言葉は、私の予想だにしないものだった。
「お、お父さん!?」
確かに愛流は、拳銃を持った男に対し、そう言った。
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