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日にちは流れ、学園祭まであと二日。
いよいよその日が間近に迫った生徒たちは、準備に大忙しである。学内を歩けば、各々が工夫を凝らし、予行練習や飾り付けをしている姿が目に留まる。準備期間ということで、授業は魔道学科・機道学科ともに休みとなっている。
お祭ムードが高まる学園の、男子学生寮の一室。
「む~……」
椅子に腰掛けたルシカは難しい顔で、かざした手のひらを睨んでいた。
授業がないため、学科のローブはタンスに吊るされている。今日の彼は白の長袖シャツに半ズボンという服装で、やはりどこか中性的な容姿である。
さて、そんな彼が何をしているのかと言えば――。
「……えいっ!」
気合の声とともに、手のひらを小さく上下させる。しかし、何も起こらない。
「あ~あ、やっぱりダメだぁ……」
「諦めないの。どんなことだって、最初からできるわけないんだから」
頭を振るルシカに教師然とした言葉をかけるのは、ベッドに座ったアミルだった。
紺のワンピースの上に短く切ったジャケットを重ね、脚には左右で色の違うロングソックスと、相変わらず奇抜な格好である。彼女はここが男子寮であることなどどこ吹く風で、ルシカの魔術練習に付き合っているのだった。
もっとも、室内にいる顔ぶれを見る限り、女子寮の部屋といっても違和感はないのだが。
「ごめんねアミル。わざわざ付き合ってもらっちゃって」
「いーのいーの。どうせ授業なくて暇なんだからさ」
笑顔でそう答えたアミルは、部屋の壁にかけられた学園用カレンダーを見て、
「いよいよ明後日は学園祭だね。後夜祭のミスコン、楽しみだな~」
「……あのさ、ぼくは出ないからね……」
「何言ってるの。あたしがかわいい服用意しといたげるから、心配ないって」
「勘弁してよ……」
すっかり乗り気のアミルに、情けない声を出すルシカ。
気を取り直すように、ルシカは長い息を吐く。目を閉じ右手のひらを広げ、左手でその手首を軽く掴んで、静かな呼吸を繰り返しつつ意識を集中させる。
ややあって、
「……てやぁっ!」
――――。
一瞬、ほんの一瞬だけ、その手のひらに緑の光が浮かび上がった。
「……あ……」「……あ……」
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