さん。

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 一方、ここ機道学科の演習教室では、学園祭の準備が着々と進められている。  普段は機道学の実習授業用として使われるこの教室は、キカイを組み立てるための簡単な設備が整えられている。簡単とは言っても、各種開発器具やテスト室を完備しており、その設備力は本格的な工場にも劣らない。  広い教室の中、黒ブラウスと左手のハートギアを装備した数十名の生徒が、工具を手に忙しく動き回っている。その中央には、未だ配線がむき出しの大きなキカイが鎮座していた。  彼らが製作しているのは、完全自立行動するキカイである。  本来『キカイ』とは人の力を助長するものであり、動作するには多少なり人の手が加わる必要がある。自分で状況を判断し、それに合った行動ができるキカイを開発するなど、機道の技をもってしても並大抵のことではない。  かつての戦争では、その技術はカイザ自ら禁忌と呼んでいたという――。 「そこ、違いますわよ! その配線はこちらに繋ぐのですわ!」  あわただしい教室内に、鋭い命令が響く。  教室の前方で、先輩相手にも高飛車な指図をしているのは、背中に翼型のハートギアをつけた新入生の少女――レイナである。  現在開発が進められているキカイ部品の多くは、彼女が父親の持つ工場から学園に取り寄せたものである。さすがに一からキカイを製作するのは困難であるため、あらかじめカイザで組み立てたパーツをこちらに送って完成させるという、プレハブ工法での開発だった。 「そっちのあなたは、DパーツとLパーツを接合してくださる? あ、それと、サブシャフトにグリースを塗るのも忘れないように」  しかし、頭ごなしな命令にも誰一人文句を言わないのは、そうした後ろ盾のためだけではないようである。学科生たちを従わせる大きな理由は、彼女自身の指示の的確さにあった。  さすがというべきか、キカイ設計士の父を持つというレイナの機道知識は、新入生ながら先輩たちにも引けを取らない。――彼女の自信も、あながち間違いではないらしい。 「す、すごい新入生だな……」 「ああ……色んな意味で」 「そこ! 喋ってないで作業なさい!」  レイナは先輩二人に檄を飛ばしてから、手元の設計書を見て満足げに微笑んだ。 「順調ですわね。この学園祭は、わたくしの学園主役デビューの宴になりそうですわ」
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