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ボクは走り続けた。
逃げ出したくて
目的もなく走り続けたボクは、力尽き倒れた。
ふと顔をあげるとそこはバーだった。
こんなところに…。
ボクは吸い込まれるようにバーに入った。
「いらっしゃい。」
「強いのを。」
酒なんて飲んだことなかった。
出てきたグラスを一気に飲み干す。
体が熱くなるのを感じる。
「脳みそアンコ男さんですね?」
マスターが話し掛けてきた。
「元…だけどね。」
「ワケ有りの様ですね、大変ですか?正義の味方は。」
「当たり前でしょう、皆はボクが無敵のヒーローだと思ってるのでしょう?でもね、それは日々の過酷な訓練の賜物なんですよ。」
酒のせいか、ボクは心の中の不満を初めて口にする。
「やはり訓練をされているんですね、人知れず苦労を…すばらしいじゃないですか。」
「そんな立派なもんじゃないですよ、そりゃ初めは強くならなきゃ…悪を挫くんだ…そう思ってやってましたよ、どんな辛い訓練も嫌じゃなかった。」
ボクは何を話しているんだ…。
でもマスターの顔は、真剣で暖かかった。
「でも最近じゃ…訓練なんて現状維持にすぎない。何年もヒーローやってると体にガタが来るし、昔の様には行かないですよ。」
ハハ…と力なく笑うボクに、マスターはグラスを差し出した。
「私のオリジナルです…アナタの為だけのカクテルです。」
グラスの中で暖かな輝きを放つカクテルを、ボクはクイと飲み干す。
何だか気持ちが楽になった気がする。
カランカラン…
「マスター、いつもの。」
店のドアが開き、聞き慣れた声が聞こえる。
「いらっしゃい。」
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