悪と正義

2/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
ボクは走り続けた。 逃げ出したくて 目的もなく走り続けたボクは、力尽き倒れた。 ふと顔をあげるとそこはバーだった。 こんなところに…。 ボクは吸い込まれるようにバーに入った。 「いらっしゃい。」 「強いのを。」 酒なんて飲んだことなかった。 出てきたグラスを一気に飲み干す。 体が熱くなるのを感じる。 「脳みそアンコ男さんですね?」 マスターが話し掛けてきた。 「元…だけどね。」 「ワケ有りの様ですね、大変ですか?正義の味方は。」 「当たり前でしょう、皆はボクが無敵のヒーローだと思ってるのでしょう?でもね、それは日々の過酷な訓練の賜物なんですよ。」 酒のせいか、ボクは心の中の不満を初めて口にする。 「やはり訓練をされているんですね、人知れず苦労を…すばらしいじゃないですか。」 「そんな立派なもんじゃないですよ、そりゃ初めは強くならなきゃ…悪を挫くんだ…そう思ってやってましたよ、どんな辛い訓練も嫌じゃなかった。」 ボクは何を話しているんだ…。 でもマスターの顔は、真剣で暖かかった。 「でも最近じゃ…訓練なんて現状維持にすぎない。何年もヒーローやってると体にガタが来るし、昔の様には行かないですよ。」 ハハ…と力なく笑うボクに、マスターはグラスを差し出した。 「私のオリジナルです…アナタの為だけのカクテルです。」 グラスの中で暖かな輝きを放つカクテルを、ボクはクイと飲み干す。 何だか気持ちが楽になった気がする。  カランカラン… 「マスター、いつもの。」 店のドアが開き、聞き慣れた声が聞こえる。  「いらっしゃい。」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!