やうやう散りて1

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  「雅伊様、また月を見に…?」 床に横たわっている奏子様は笑われて、月を悲しげに眺めていらっしゃる雅伊様を見ました。 「ああ」 短く雅伊様は頷くと、寝所を出なさりました。 「一体誰が貴方の心を乱しているのかしら」 奏子様は悲しげに呟かれました。 雅伊様の心は自分に向けられず、誰に向けられているのか奏子様はご存知でした。 奏子様に付いている女房の、世良(せら)式部でございます。 学者を沢山輩出している世良家の出身で、歌の才能も美しさも宮中の人々からは一目おかれるような存在の世良式部。 雅伊様が世良式部に惹かれているのを、奏子様はご存知だったのです。 世良式部は奏子様にとても尽くしています。さりげない気配りも、とても気に入っているのですがそのことに関しては憎くもあります。 しかし、皇太子とその奥方に使える女房の禁じられた恋は長くは続かないでしょう。  
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