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愛流は威勢良く言ってみたものの、どうしようかと悩んでいた。こんな寂れた町ではこれといったものがあるわけではない。
「帰りが夜遅くなるけど、問題ないかな」
愛流はひかるにそう質問した。
「よっぽどの時間じゃなければ大丈夫、かな」
「それじゃ、心してついてきてね」
愛流は山道を突き進んだ。時折ひかるのようすを見てみたが、彼は思いのほかタフなようで息を切らせていない。
「すごいね。私なんてもう」
愛流ははぁはぁと息を荒げていた。
「さて、そろそろ到着だよ」
頂上についたときに目の前に見えたのは昼と夜の境目だ。
「わぁ」
「マジックアワーって言うんだって。太陽が地平線に完全に沈んでから少しの間の空。いいでしょ?」
薄明かりの中、確かに輝いているその世界を二人はしばらく眺めていた。
「こんな時間までつき合わせちゃってごめんね」
山を降りた愛流はひかるに頭を下げる。下山に思いのほか時間がかかってしまったのだ。
「頭を上げて。とってもいいものが見れたから、気にしなくていいよ」
愛流は顔を上げてみたもの、ひかりの笑顔を見て再び下げてしまう。
「今日はありがとう。また明日」
ひかるが一週間前に転入してきたとは思えないぐらい、彼はクラスになじんでいた。
愛流はといえば、いつも昼食をとっている相手が彩のほかにひかるも増えたということ以外、特に変わったところはなかった。
「しっかし、いつものことながらすさまじい朝だったよねぇ」
愛流は朝礼のことを思い出し、頭を抱えていた。朝礼をおこなうのは委員長の仕事となっている。朝、担任に連絡事項を聞き、それを伝えるのだ。
「いつも騒がしいけど、どうして?」
惣菜パンを手にしたひかるは彩に質問している。
「そりゃ、連絡なんてつまらないし、なによりも」
愛流は視線を向けた彩をにらみつける。
「委員長に求心力がないからねぇ」
「それは言わないで」
愛流は肩を落とす。
「でも、天見さんはがんばってるじゃない。朝礼もそうだし、授業の準備だって毎回やってるし」
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