春景

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* * 真哉はしばらくの間その2センチにも満たない白い塊を見つめていた。 * * * 風が吹くたびに散る、薄紅が頬を撫でる。 * * * * * その手のひらにゆっくり唇を近づけて、息を吸うように、その白い『彼』を口に含んだ。 * * * かさりとした感触に、急に胸が詰まった。 * * * 高温で焼かれた白い骨は、少し歯を立てただけでぼろっと崩れていく。 * * * 吐き出しそうになるのを懸命にこらえて、飲み込んで、息をつく。 * * * * * 普段何気なくしている飲食の行為が、神聖なものに思えた。 * * * * * 自分の身体に、『彼』を取り込んだ。 * * * * * 『彼』の欠片を取り込んだ。 * * * * * * * * * * 頭の上で、桜が狂ったように散っていた。 * * *
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