春景

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* * 1月になると、沖縄ではもう桜が咲き始める。 * * * 何気なく耳にした話だった。 * * 確かに考えてみれば気温の差で当然のことだ。 * * それでも1月は真冬という自分の中の常識が、不思議なことのように感じさせた。 * * * 空港からレンタカーを借りて、少し郊外へとハンドルを切る。 * * * 今年も、この地にいる。 * * * 今年も、また同じ道を走る。 * * * * * 桜が咲き始めていた。 * * 黒い枝にしがみ付くように、薄紅の花が開いていた。 * * 久しぶりに見る桜の色は、あの頃と同じ、空に溶ける色だった。 * * * この桜が満開になるまで、1週間。 * * それが真哉がこの地にいる時間。 * * この花が散ってしまう前に、少し北へと移動しなければならない。 * * * 風が穏やかで、枝先の蕾が揺れていた。 * * それを見上げては目を下ろし、地面を這う根元に屈みこみ、そしてまた見上げる。 * * * 空の色が変わっていくたび、その花の色も変わって見えた。 * * *
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