春景

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* * 「あれ?真哉は?」 * * 集まったメンバーを見回して、秀雄が開口一番そう言う。 窓の外は白い風が吹いていた。 読んでいた雑誌からゆっくり目を上げて、孝志が窓の外を見る。 西から東へと風に乗って白い雪が、流れていた。 * * 「…行ったよ」 * * 笑い顔とも泣き顔ともつかない、消えてしまいそうな表情と声。 いつから、それが目立つようになったのだろう。 * * 「そうか、もうそんな時期なんやなあ…」 * * * 東京にいると、見えないもの。 * * * 足元からやってくる、春。 * * * 煙草に火をつけて、秀雄も窓の外に目をやる。 * * * 相変わらず、雪が、西から東へと。 * * *
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