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黒いスーツを着て、桜の木の下で座り込む。
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火葬場の近くには、どうしてこんなに桜が咲き乱れているのだろう。
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散り始めの木には薄緑の葉が見え始めていた。
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何もかもが早く進んだ。
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通夜、葬儀、火葬。
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全てに出席し、全てで渦巻く泣き声を聞きながら、真哉は誰とも話さなかった。
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火葬が終わって、皆が帰っていく中、作業を続ける火葬場の係員の側で、真哉は無言で立っていた。
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骨壺以外の骨は、捨てられてしまうのだと知っている。
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だから、最後まで見ていたかった。
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もしもあの時、あの係員の目に、風で舞い上がった灰が目に入らなかったら、こんな狂気じみたことにはならなかったかもしれないのに。
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桜の木の下で、ポケットに手をそっと入れる。
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握り締めたら押しつぶしてしまいそうな、軽い感触が指先に触れる。
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抜き出した手のひらに、白い骨が乗っていた。
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どこの骨なのかは知らない。
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ただのゴミみたいに、捨てられるための入れ物に押し込まれる寸前で、見もせず掠め取ったものだから。
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その小さな破片を見つめる。
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それが、彼のものなのだと、どうしても頭の中で繋がらない。
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でも、常識で、そうちゃんと認識している。
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ちゃんとわかっている。
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だから、盗った。
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