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だけど、蓋をしたんだ。
自己防衛をしたんだ。
いつか、自分が傷付く事を恐れてね。
だって、そうだろ?
俺がこの感情を認めることを、世間一般の狭い視野ばかり見ている人間は、自然の摂理に反したもの、なんて言うんだぜ?
認めることはたやすいけど、抱き続けるには、随分体力と労力がいるんだ。費やす気力も。
ベランダから部屋に戻り、部屋の中心に置かれた、ガラステーブルの上の灰皿に煙草を押し付けた。
そして、煙草の煙を吸った上半身の衣類を全て脱ぎ捨て、タンスの中から、新しいTシャツを取り出す。
その際、部屋の片隅に立て掛けられた等身大の鏡に、自分の裸体が映った。
鏡は嫌いだ。自分の体を見るたび、嫌悪感ばかりが溢れてくる。
人ほどではなくとも、微かに膨らむ胸。
筋肉に紛れて気付きにくいが、それでも、男性のそれとは確かに違うのだ。
幾つもの偶然、幾つもの奇跡が度重なって、彼女と出逢えた。
この出逢いは、きっと素敵なものだった。正しいものだった。
ただひとつ、間違ってるのだとしたら
――僕の体が、女であったことだけだ。
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