商人たち

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「なんか用?」 路地での出来事による不機嫌と金欠とで神経が逆立っている。 苛立ったエレンの様子に、頭に砂色のバンダナを巻いた若い男は苦笑いした。 「さっきの見てたんっスけど……。いやぁ、強いっスね」 「それだけ?」 つまらないことで呼ぶな、とエレンは男を睨み付けた。 くるりと背を向けて道を急ぐ。 「あー、実は……ってちょっと! 待ってくださいって!」 「待たない」 「話だけでもっ……ね?」 スタスタと去っていくエレンの前に、男は両腕を広げて立ちふさがった。 「俺、フォーダムって言います」 「聞いてない」 邪魔、どいて、と視線で訴える。 「まあまあちょっと……」 どうどう、と男はにこやかにエレンをなだめる。 ――あたしは馬か。 変なことを言ったら槍を突き付けてやろうと思った。 「で、何?」 ムスッとして言葉の続きを待つ。 「ちょっと仕事を手伝って欲しいだけなんっスよ」 「仕事?」 「俺、商人なんっスけど」 「見りゃわかるわよ」 「そ、そうっスか。もちろんお礼はしますよ」 フォーダムと名乗った商人は、懐から小さな布袋を取り出した。 「前金で、これくらいでどうっスか?」 「わっ」 放り投げられた袋を空中で受け取ると、ずしりと重い。 袋を覗くと銀貨がぎっしりと詰まっている。 軽く金貨一枚ほどの額になるだろう。 「こんなに!? で、何をすればいいの?」 手中の大金に気持ちが高ぶる。 天の恵みとは、まさにこのことだろう。 「やってくれますね?」 「モノにもよるけど……とりあえず娼婦以外ならね」 「あー、なら大丈夫っス」
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