商人たち

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明日の朝、出発。 目的地はエルザンド。 ウィンメルから馬車を使っても軽く五日はかかる。 エレンが宿屋に戻ったのは、すでに日が西に傾いた頃だった。 部屋に入ると、くうくうと寝息が聞こえた。 エレンはできるだけ音をたてないように歩くと、ベッドにそっと腰掛けた。 手を伸ばし、顔にかかった黒髪に触れる。 セレの無防備な寝顔。 その寝顔が愛するヒトの――セレスの影とかぶる。 セレスはエレンの契約者だった。 ヒトは精霊と契約してはじめて魔力を得て、魔法が使えるようになる。 五年前、セレスは長い間眠り続けていたエレンを目覚めさせた。 深い森の中。 丸太で作った簡素な家に住み、瞑想と魔法書の読解に明け暮れる日々。 小さな庭で薬草を栽培し、鳥や動物と戯れる。 人との交わりを避けて静かに暮らすセレスと何年も共に過ごすうちに、エレンは惹かれていった。 基本的に精霊は生まれた土地から離れることができない。 金の足輪はその戒め。 土地を離れ、自由になる方法はただひとつ。 契約者が命を削って精霊の戒めを解くこと。 時にはその反動で、契約者を死に至らしめることもある。 「セレスはどうして、あたしの戒めを解いたの?」 窓から射し込むオレンジ色の光だけが、長く影を落としていた。
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