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森は静かだった。
橙色の光が辺りをそっと包み込む。
清らかに流れていた小川は干上がり、土色の底が見えた。
梢を揺らす風は止み、仲良くさえずる鳥たちの姿もない。
呼び掛けても声が聞こえない。
こんなに静かな森は初めてだった。
「みんな……?」
手のひらに乗るほどの大きさの精霊が、呼び掛けながら森の奥へ羽ばたいていった。
銀を帯びた金の髪。
ヒトと異なるのは、その小さな姿と羽。
背中の透明な羽が震えるたびに、光の粉が宙を舞う。
どれほど呼び掛けても、何の声も返ってこなかった。
まるで、森の時が止まってしまったかのように。
不安に押し潰されそうな胸を、なんとか持ちこたえてひたすら奥へ進んだ。
茂みを越え、干上がった川を渡り、木々に囲まれた広い平原に出たとき。
ふたつの人影が対峙しているのを見た。
人里離れたこの森に来客は珍しい。
ヒトの歩数にして二十歩ほど。
近づくにつれ、その姿がはっきりと見えてくる。
片方は精霊がよく知っている顔だった。
「セレス!?」
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