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約束の時間、城門前にて。
ほんの少しの隙間も惜しいといったように高く積まれた荷物。
狭い荷馬車の中で、じたばたと暴れる影がひとつ。
「ちょっ……何すんのよ!?」
「せっかく王子様と会うんや。おめかししたほうがええやろ。それと、丁寧口調でお願いしますわ」
強引に腕を掴まれ、ドレスを押しつけられるエレン。
もう逃げ場はない。
「やめっ……わぷっ」
抵抗も虚しく終わった。
サンドラはエレンに強引にドレスを着せると化粧を施す。
間もなく、凛々しい戦士はひとりの貴婦人へと姿を変えた。
着飾ったエレンを前に、サンドラは小さくため息を漏らした。
「精霊みたいに綺麗やなぁ……」
ほんのり色付いた頬に、見るもの全てを引き付ける青い瞳。
いつもは結われている髪も下ろされ、銀を帯びた金髪はゆるやかに背を流れていた。
銀糸で刺繍されたドレスは、あつらえたようにピッタリで。
――だって精霊だもん。
決して口には出さなかったけれど。
ドレスの裾を踏んで転びそうになりながらも、サンドラに手伝ってもらって荷馬車を降りる。
「……すげー綺麗っスね」
フォーダムはぽかんと口を開け、目の前に現れた貴婦人に見とれていた。
「ほな行ってくるわー。店番よろしゅうに」
サンドラはエレンの前に立つと、城門へ続く橋を渡った。
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