商人たち

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「何用だ」 行く手を阻むように門の前で槍が交差された。 いかつい顔つきに、がっしりとした体格の門兵。 その突き刺さる視線と威圧感をものともせず、サンドラはにっこりと笑った。 「この人は花嫁候補や」 「へっ?」 エレンが間抜けな声をあげると、振り返ったサンドラにじろりと睨まれた。 門兵たちは驚いたように顔を見合わせ、歯を見せて笑った。 「そうですか! ささ、お通りください」 「開門ッ!」 門兵の声に答えるように、重い音を響かせ、丈夫な木の門が左右に開いた。 目をぱちくりさせるエレンの手を引き、サンドラは城内へ進んだ。 「すごい……」 真っ白い石畳の床に敷かれた、緋色の長い絨毯。 通路には青銅の甲冑がずらりと並び、壁には武具が飾られている。 侍女に案内されるまま大広間を通り抜け、短い階段を上がった。 「少々お待ちくださいませ」 案内されたのは豪華な客室。 侍女が部屋を出たと同時に、エレンはサンドラに掴み掛かった。 「ちょっと! どういうことよ!?」 「まぁまぁ……そんな目くじら立てんといてや。フリだけでええんやから」 「フリだけって!? 花嫁とか、もう何考えてんのよっ!?」 エレンは頭を抱え、その場に崩れた。 「まぁまぁまぁ……」 サンドラが申し訳なく思っている様子は少しも感じられない。 むしろ楽しんでいるようにも見え、エレンの機嫌を損ねた。 ――あーもう! 花嫁なんて聞いてないわよっ!! 前金を受け取っている以上、逃げるわけにはいかない。 それでもやはり、嫌なものは嫌である。 程なくして、扉が勢いよく開かれた。 「美人みーっけ!!」 「はぁ!?」
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