金獅子

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姿を現したのは若い男。 見た目からすると、エレンとそう歳は離れていないようだ。 少し癖のかかった、赤みを帯びた金の髪。 よく手入れされているのだろう。 背中まで伸びた髪は男のものとは思えないほど美しい。 茶目っ気をたっぷり含んだ茶色の瞳が、エレンの灰青の瞳とぶつかった。 「合格っ!」 「はい?」 男は謎の言葉とともに、つかつかと近づいてくる。 思わずエレンは後退ったが、壁に背が触れた。 男は笑って、エレンの顎を持ち上げた――が、その手はすぐに弾かれた。 「気やすく触んないで」 手を払いのけ、エレンは冷たく言い放った。 「なっ、何ゆうとんのや!? 王子様なんやで!!」 狼狽するサンドラもお構いなしに、エレンは男を睨み付ける。 サンドラの慌てぶりに、ざまあみろと思ったくらいだ。 「へぇ……」 男にとってエレンは、初めて見るタイプの女だった。 自分に媚を売る女、富と身分が目的で近寄ってくる女。 今までの花嫁候補は皆、そうだった。 「気が強い女も好きだぜ」 払われた手を戻し、男は笑った。 「はぁ!? 勝手なこと言ってんじゃないわよ!」 サンドラは顔を真っ青にして、口をぱくぱくさせながらふたりのやりとりを見ている。 「あれ、花嫁じゃないの?」 「断じて違う!」 「なーんだ。じゃあさっさと帰れよ」 「言われなくても帰らせてもらうッ!」 男を押し退け、失神寸前のサンドラを引きずり、エレンは扉に手をかけた。
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