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「なんか……すごい疲れた……」
花嫁に仕立て上げられ、キースと名乗る王子に振り回され、散々な一日だった。
宿に戻ったのは夕方。
すでに辺りは真っ暗だった。
「ただいまー……」
「おかえり!」
扉を開けた途端、元気な声が迎えてくれた。
体はぐったりと重かったが、セレの声を聞いた一瞬だけ、疲れていることを忘れた。
「ねえねえ、エレン」
「んー?」
ベッドに寝そべるエレンの枕元へ来ると、セレは明るい声で話しはじめた。
「今日ね、ランバートにお小遣いもらったんだよ!」
「へぇー、よかったわね。明日もお手伝い頑張ってね」
「うんッ!」
あどけない子供。
セレは本当にあの山賊たちを倒した子供なのだろうか。
何かの間違いではなかったのか。
エレンは目の前で見ていたにも関わらず、そう疑いはじめていた。
セレの記憶は未だ戻らないまま。
名前、出身地に加え、世の中の一般常識さえも覚えていないという。
そのため、エレンは時間を見つけてはセレに話して聞かせていた。
乱れた世のこと、種族のこと、駒と呼ばれる兵士のこと……。
セレはそれらを飽きもせず、目を輝かせて聞いていた。
だからこそ、エレンも次から次へ知識を与えていったのだ。
明日に備えるため、エレンはそっと目を閉じた。
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