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キースが示した行き先を聞き、エレンは記憶を手繰り寄せた。
ミセリコルディ三番街。
エルザンドから馬を使えば半日ほどで着く距離だ。
かつては化学工場や魔法研究などで栄えていたが、兵士として駒を徴兵されるようになってからは、人手不足で次々と建物は閉鎖されていった。
今では機能を失った多くの建造物が閑散と残っているだけである。
「そんな所に何しに行くの?」
廃墟となった街に、何の用があるのだろうか。
「行ってから教えてやるよ」
鏡の前でハサミを取り出し、不自然に揃った髪を適当に切りはじめるキース。
足元には金の髪が渦を巻いている。
「……部屋が散らかるとか思わないの?」
「ん? 掃除してくれるだろ」
ミセリコルディまでは、細く険しい山道を通らなければいけない。
そのため馬車を使うことができず、馬、または自分の足しか交通手段がなかった。
よし、と手を止めてハサミを置くと、キースは振り返って尋ねた。
「エレン、馬乗れるか?」
乗馬の経験がまったくないわけではない。
特に支障はないだろう、と判断した。
「まぁ、一応ね」
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