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そうこう言っているうちに、軍用の馬屋へと連れてこられた。
丈夫な柵に仕切られたそこには、何頭もの馬が繋がれている。
キースは馬屋の奥まで行き、そこで休憩していた男に呼び掛けた。
「おっちゃん。ちょっと馬貸してね」
「でっ、殿下ッ!?」
王子の変貌ぶりに腰を抜かし、目を丸くする馬番。
今のキースの姿は、長年王家に仕えている馬番でさえ見たことのないものだった。
獅子のたてがみのような、風を含んで揺れる金髪。
シルクやベルベットとは程遠い、簡素な荒い作りのくすんだ鎧。
「俺が来たって他の奴らには内緒な?」
「し、しかし……」
「これで。ね?」
キースは強引に、渋る馬番の手に金色の硬貨を握らせた。
これではもう断れない。
きまりが悪そうな表情を浮かべ、馬番は懇願するように言った。
「……わ、わかりました。でも、早く戻ってきてくださいよ」
「わーかってるって」
キースは鍵を受け取り、指に引っ掛けてくるくると回した。
そして、呆れ顔のエレンに向かって片目を閉じてみせた。
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