プロローグ

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「時の足枷、大地の守護神! 汝をこの地より解放せよ!!」 声を限りに叫ぶ黒髪の男。 ほとんどそれは絶叫に近かった。 あまりにも突然のことに、精霊は目を見開く。 ――そんなことをしたら貴方が! 精霊の足首についていた金色の輪が音を立てて割れた。 砕け散った金色の光は、きらきらと空気に溶けて消える。 その様子を見て、セレスは一瞬だけ微笑んだ。 次の瞬間、まばゆい光と耳をつんざくような轟音が辺りを震わせた。 精霊は咄嗟に腕で目をかばった。 空気の振動が遠ざかるにつれて、もとのような静寂が戻ってきた。 数呼吸置いて、精霊はそっと目を開けた。 目に飛び込んできたのは、ぽっかりと口を開けた大きな穴。 そこにはセレスの、愛するヒトの姿は無かった。 精霊の頭の中は真っ白だった。 「セレ……ス」 悲鳴をあげそうになったその時、何者かの気配に気付いた。 はっと振り返ると、精霊のすぐ後ろに紫の髪の女が薄笑いを浮かべて立っていた。 「自由になれてよかったわね」 精霊を見据え、女は妖しく笑う。 鮮やかな紫の瞳。 その左の瞳は、伸ばした前髪によって隠されていた。 「……あなたがみんなを消したの?」 震える声を搾り出し、精霊は問い掛ける。 「ええ」 悪怯れる様子など微塵も無く、女は妖艶な笑みを浮かべる。 「セレス、は……?」 「今、殺したわ」 鋭い刃物のような言葉は、精霊の不安定な感情を抉った。 「殺されるのをわかって精霊の戒めを解くなんてね。利口な男だこと」 女の言葉も、精霊の耳には届かない。 「殺し……た?」 女の言葉を繰り返す。 セレスは殺された。 つまり。 もう、この世にはいない。
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