金獅子

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「そのチビ、エレンの何なんだ? 弟か?」 道の途中。 先頭のキースは振り返ると後方を歩くセレを視界の隅に留めた。 答えるべくエレンはキースの隣に馬を寄せる。 「違うわよ。セレには記憶がないの」 「記憶喪失か……そりゃ大変だな。連れて来ちまったけど大丈夫かよ?」 「きおくそうしつ? なにそれおいしいの?」 ふたりの間に割って入り、セレは顔を輝かせてキースを見上げた。 「おっ、知らねーのか? 世界三大珍味のひとつだぜ」 「なにそれ!? ねぇねぇ、エレンは食べたことある?」 「……嘘を教えるな、嘘を」 針のような視線でキースを突き刺し、エレンはわざと肩を落として溜め息を吐く。 「まぁ……足手まといにはならないと思うけど」 セレが山賊を退治したことはまだ話していない。 やはりあれは何かの間違いではなかったのか、と思うと口に出せなかった。 夕方。 空を覆うのは、午前中の青空からは考えられないほどの厚い雲。 辺りは薄暗く、湿った空気が風に運ばれてきた。 緑のない広大な平地には、遠目に見ても巨大な建造物が並んでいる。 生き物の気配は全くない。 無機物の塊が空の下に転がっているようだった。 「雨になりそうだな」 天を仰ぎ、キースが呟いた。 雲の流れが速い。 渦を巻いた黒雲が遠くに見える。 「行くぞ」 ある程度近づくと馬を降り、ひとつの建物に入った。
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