8058人が本棚に入れています
本棚に追加
エレンは両腕を支えにして体を起こそうとするが、まったくと言っていいほど力が入らない。
煤で黒くなった頬を冷たい汗が伝う。
炎はすぐ側まで迫っている。
赤く照らされた室内に陰りが差した。
不思議に思って顔を上げると、魔物の醜い顔がすぐ目の前にあった。
赤い瞳に自分の姿が映っているのを見て、スッと血の気が引く。
魔物の吐息が顔にかかる。
震える腕を叱り付けるが、思いとは裏腹に腕は動いてくれなかった。
「剣!」
セレがキースに腕を伸ばしながら叫ぶ。
声を受け、キースは腰の剣に視線を落とした。
大剣の破壊力は凄まじいが、その重さは半端ではない。
子供に――セレに扱える代物でないことは一目瞭然である。
だが、今はそんなことを言っていられない。
「受け取れ!」
キースはセレに向けて大剣を力いっぱい投げた。
頼みの綱はセレだけだ。
空を切って飛んできた剣を、セレは何の迷いもなく掴んだ。
両手で柄を握り締め、床を蹴って跳び上がる。
ためらうことはない。
今すべきことは……。
目の前の敵を殺すこと――
醒めた紺色の瞳に、魔物の醜い頭が映った。
剣が振り下ろされる。
まるで、初めから剣の使い方を知っていたかのように。
最初のコメントを投稿しよう!