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「エレン、傷はどうだい? よくなったかい?」
「ありがとう。だいぶ治ったわ」
そう答えたのは、銀を帯びた長い金髪を頭の高いところで結い上げた女。
ヒトでは珍しい灰青色の瞳は、ややきつめ。
背丈と同じほどの槍を背負っている。
人間離れした稀に見る美しい容貌は、道で擦れ違う誰もを振り返らせた。
右腕にきつく巻かれた包帯を見下ろし、エレンは一息ついた。
半月ほど前に村が山賊に襲われ、それを撃退したときに受けた傷だ。
「この村にも医者や魔法医がいたらなぁ……」
呟くようにして老人は行ってしまった。
「やぁ、調子はどうだい?」
入れ替わるようにして、若い男が話し掛けてくる。
いつものことだ。
一歩家の外に出れば、次から次へと話し掛けられる。
「いつもどおりよ」
「エレンがいてくれて本当によかったよ。エレンがこの村に住んでから、やつらが来るのがかなり減ったんだからな」
ここはノーストの村。
東の大陸の最南に位置する、小さな漁村である。
――もう、一年も経ったんだ。
一年前、エレンがこの村を訪れたときに山賊が襲ってきた。
もともと、この村はよく山賊に狙われ、襲われていたらしい。
それを槍一本で追い払ったことで、エレンは英雄にされてしまった。
腕のたつ者は駒として徴兵されてしまったので、村を守れるものはいない。
ふらりと現れた旅人、エレンはまさに村人たちが求めていた存在だった。
村人全員に引き止められ、エレンは村を出れずにいたのだ。
そんな、いつもの日常。
村の真ん中にある広場が、いつもより少し騒がしいことを除いては。
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