【一】

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 若者の住まいは、古びてはいるが頑丈そうな建物の一室だった。  元は高級マンションか何かだったのだろう。何台もあるエレベーターや、広々とした玄関ロビーにかろうじてその面影が窺える。もっとも、そのエレベーターも大半は故障して動かないようだったが。  若者は迷う事なく、かろうじて動いている一台きりのエレベーターの前に立った。  しかし、その現在位置を示す目盛りはめいっぱい右端に寄っていて、最上階付近に止まっている事を示していた。  大雑把に目盛りに振られた数字は、もっとも大きなもので40。ちょっとやそっとでは降りて来そうにない。 「ちっ」  舌打ちついでに、エレベーターの扉を思いっきり蹴り付ける。  表面に微かな凹みができたようだが、気にする気配は微塵もなかった。 「……ったりぃな」  口の中でぶつぶつと文句を言いながらも、少年を肩に担いだまま、若者はエレベーター脇の階段を登り始めた。  目的の階にはすぐ着いた。  若者の部屋は、四階の廊下の一番奥だった。  泥棒避けなのだろう、扉には元からある鍵以外にも、自分で穴を開けて取り付けたらしいシリンダー錠やダイヤル式の鍵など、合計六つもの鍵が取り付けてあった。全部開けるだけでも一苦労だ。  それを、少年を肩に担いだまま片手だけで器用に開けて、部屋の中へ入るとようやく少年の身体を床に下ろした。  見事なほど、簡潔な部屋だった。必要最低限の家具以外、何もない。  リビングにはテーブルとソファがひとつずつ。ダイニングには食卓すら見当たらず、料理の際の作業台代わりとおぼしき古いテーブルが、キッチンに横付けされて置いてあるきりだ。冷蔵庫とオーブンレンジがある事で、何とかキッチン本来の使われ方をしているらしい事が判る。  きっとベッドルームには、ベッドひとつきりしか置いてないのだろう。その情景が容易に想像できる空間だった。
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