【序】

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「いたか!?」 「C、Bブロックにはいない!」 「サウス棟を探せ!」  男達の怒号が飛び交い、いくつもの足音がドカドカと音を立てて廊下を走り回る。  真夜中過ぎだというのに建物全体が騒然として、大量のサーチライトに照らし出された中庭は、昼間のように明るかった。  廊下を走り回る男達の手には、些か物騒な銀色に輝く武器。見る者が見れば、それが一般には流通しない最新式のレーザーガンである事が判るだろう。 「ウエスト棟、捜索終わりました!」 「よし! ウエスト棟閉鎖! 捜索隊はサウス棟へ回れ!」 「了解!」  男達は建物中の通路や小部屋を片っ端から調べて回り、着実に何かを追い詰めようとしていた。  まるで狩りのワンシーンのようだが、ここは広大な原野でも森の中でもない。冷たい印象の白い壁と天井、リノリウムの床に囲まれた、巨大な施設の中だった。  既にノース棟とウエスト棟は閉鎖され、残るはサウスとイーストの二棟だけになっていた。  そこへ何百人という男達が銃を片手に押し寄せ、血走った目で建物内をくまなく捜索して回っていた。 「いたか!?」 「いや、ここにもいない!」 「次だ!」  どうやら物置として使われているらしい、窓もない殆ど忘れ去られたような小部屋を覗いた男達が、荒っぽく扉を閉めて廊下を走り去った。  勢いよく閉じられた扉が巻き起こした小さな風が、部屋中に薄っすらと降り積もった埃を巻き上げ、誰もいない部屋の視界を微かに曇らせた。  その直後、小部屋の片隅にある通気ダクトの蓋が、カタリと音を立てて内側から外された。  恐る恐るといった様子で、小さな人影がダクトの中から顔を覗かせる。  おそらくは少年だろうか。痩せぎすの身体に大きな瞳。短く刈り込まれた髪が大きな目を更に大きく見せて、身体を覆う手術着のような素っ気ない服から覗く手脚の細さが痛々しい。  少年は周囲に人気がない事を確認すると、するりと床へ滑り降り、元通りにダクトに蓋をはめ込み、廊下へ続く扉をそっと押し開けた。  どこかを走り回っているらしい男達の声が、いくつも聞こえる。  しかし、そう近くはない。  ――誰かが捜索した直後の場所を、再び他の誰かが捜索する可能性は低い。  そう教えられた通りに、僅かに開けた扉の隙間から廊下へ滑り出ると、先程の男達が走り去って行った方角へ向かって駆け出した。
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