【序】

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「止まれ!」 「止まらんと撃つぞ!」  その言葉とほぼ同時に、銀色の兇器から純白の光線がいく筋も放たれた。  警告ではない。問答無用である。  レーザーは上体を低く屈めた少年の頭上を通り過ぎ、壁に無数の焼け焦げた穴を開ける。  その中の幾筋かが少年の髪を掠め、窓硝子を貫いた。硝子にぽつぽつと小さな穴が開く。それで充分だった。 「止まらんか!」  口では制止の言葉を発していても、その手から放たれるレーザーは確かに殺意を持っている。  少年は一気に窓まで走り抜け、両腕で頭を庇いながら、そのまま穴の開いた硝子に向かって飛び込んだ。  パリーン……!  小気味よい音が夜風に響き渡り、小さな身体が宙に飛び出した。 「くそっ!」  逃がしてしまうくらいなら、いっそ殺してしまえ。  甚だしく短絡的な思考。  しかし男達は、躊躇う事なくその選択肢を選んだ。  明確な殺意を持ったレーザー光線が、逃げ場のない少年の身体を幾筋も貫いた。  手術着にいくつも小さな焼け焦げた穴が開く。右の二の腕と左の太腿。肺の辺りには三つも開いただろうか。  空中でびくりと大きく跳ねた少年の身体は、だらりと緊張を失い、そのまま地上へと落下していった。  しかし、少年の身体が叩き付けられた先は、地面の上ではなかった。  小さな身体ゆえの身軽さと、硝子に突っ込む前の助走。そして、僅か二メートルの距離で建物脇に迫る外壁。  少年の身体は外壁の真上に叩き付けられ、壁の上でワンバウンドした後、ずるりと壁の外側へ滑り落ち、そのまま真下の用水路へと転落した。 「しまった!」  水音を耳にした男達が顔色を変える。 「すぐに追え!」 「アレを外に出してはならん!」 「警察には感付かれるなよ!」  敷地外では中のようにはいかない。人目もあるし、武器の携帯も限られる。少年がどこかに助けを求めて駆け込まないとも限らない。  そして何より、あの少年は特別だった。  深夜の白い建物は、更なる喧騒に包まれた。
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