【一】

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 と、そこへ突然、ピロピロと軽快な電子音が響き渡り、少年の身体がびくりと身じろいだ。 「おう、俺だ」  歩いて来た人影が、ポケットから取り出した小さな直方体の箱を耳に当て、話し掛けた。  腕時計一体型の携帯テレビ電話が全盛の昨今では珍しい、ハンディタイプの通信機らしかった。公衆回線を使いたくない人種、使うとヤバイ人種に、今でも根強い人気がある。  そういう物を持ち歩いているあたり、この男もあまり堅気とは言えないようだ。 「どうした?」  相手と話しながら、路地に蹲る少年の方に近付いて来る。 「おいおい、そりゃないぜ。お前が食いたいってゆーから、下ごしらえも済まして、点心(デザート)まで仕入れてきたんだぜ? どーしてくれんだよ、あんなん一人じゃ食い切れねぇぜ」  拗ねたような口調でそう言いながら、手にした紙袋に視線を落とす。  大事そうに抱えたその中身は、どうやらデザートらしい。  落とした視線が、ふと、路地の片隅に蹲る少年の上にも注がれた。  しかし、興味を惹かれた様子もなく、視線はそのまま少年の頭上を素通りし、そこに何もないとでも言いたげな無関心さで、少年の脇を通り過ぎて行った。 「あー、もうわかったよ。仕事ならしょーがねぇだろ。なんとか処分するよ」  溜め息混じりの声が、通信機の向こうで必死になって言い訳しているらしい声に答える。 「その代わり、仕事でドジったら承知しねぇからな」  不意に低められた声音が鋭利な響きを含み、辺りの空気が一瞬にして緊張を孕む。  その空気を感じ取ったのか、少年の肩がぴくりと震えた。 「あぁ、巧くやれよ。じゃな」  そう言って通信を切った男は、二、三歩行きかけて立ち止まり、何やら考える気配を見せた。  そして突然くるりと踵を返すと、蹲ったままの少年のところまで取って返した。
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