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こじんまりとした画材店を前にして、ようやくシキはほっと息をついた。今までの苛立ちが全て抜け落ちたような感覚になんだか安心する。それだけ、この画材店は大切な居場所だった。
「こんにちはーっ」
「あらシキちゃん、いらっしゃい」
くすんだレンガ造りのこの店は、シキが昔から通い続けている馴染みの店。ヘタに大きな店よりもずっと暖かくて優しい場所だ。家から近いのもまた魅力のひとつ。
元気良く扉を開けると、いつも通り美しいお姉さんが出迎えてくれた。ふんわりと巻かれた色素の薄い茶色の髪は地毛だという。シキと同じ背中ほどの長さなのに、シキと違って優雅に見えるのは彼女の色気のせいに他ならない。白で統一されたワンピースよりも白く見える肌で、お姉さん、山崎アイはゆらゆらと手を振った。
一見するとお嬢様なその外見は、けれど組まれた足と頬杖で完全にイメージを転換される。そんな気取ったりしない美しさがシキにとっては憧れで。
「こんにちは、アイさん!」
「若い子は元気で良いわねえ」
ほう、と羨ましそうにため息をつくアイは、確かシキよりもほんの少し年上なだけだったはずだが。思わず苦笑いを浮かべたシキの心中を代弁したのは、アイよりも少し低い声だった。
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