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「俺と同い年の奴が老人発言すんなって」
少しだけ不機嫌そうな声音もシキが良く知る人物のものだった。二階へ続く階段をため息混じりに降りてきたのは、漆黒の長髪を後ろで括った今風のお兄さん。普段はラフかつお洒落な服に身を包む彼だけれど、今はモノクロストライプのエプロンをつけていてちょっと可愛い。
ふわりとシキの鼻を掠めたのは甘い香りだった。
「こんにちは、カイさん」
「ようシキちゃん。良かったらケーキ食ってく?」
打って変わって満面の笑みを浮かべるお兄さん、山崎カイは画材店の息子でありながらパティシエを目指すシキの兄貴分だった。アイと同じく昔から可愛がってもらっている。片手に持っている真っ白の皿には、今し方完成したのだろう小さな可愛らしいケーキが五つ乗っていた。
「おっ先ー」
「あ、てめっ!」
それに真っ先に手を伸ばしたのはアイで、カイの制止も聞かずに口の中に放り込むが、それからすぐに眉を寄せて口を押さえてしまう。ため息と共にカイから差し出された水を一気飲みして、うへえと舌を出す。そんな動作も美しく見えるのは神様が不公平な証明に他ならないんじゃないだろうか。
「あっま……。カイ、だめよこれ甘すぎるわ無理無理」
「それはアイの味覚の問題だ。辛党が俺の菓子を食うな馬鹿者」
呆れたような顔のカイとげんなりしたアイに、シキはついにくすくす笑い出してしまったのだった。
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