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そういえばもっと引っかかる発言をしていたことをふと思い出した。
「……二人を超える偏食って……」
一体どれほどの恐ろしい人なのか。さりげなく失礼なことを考えるシキをちらりと見て、カイは珍しく押し黙った。アイも珍しく困ったような笑顔を浮かべる。
けれどそんな双子の様子に気付かないままシキは思考を切り替えて、当初の目的、要するに画材を物色するために沢山の絵の具が所狭しと並ぶ棚に向かった。
双子とのお喋りは楽しいが、よく話し込んで何も買えないことがあるので今日は気をつけないと。
たしかコバルトグリーンが足りなくなりそうだったはず。所持金と脳内で相談しながら一つ一つ絵の具を手に取る。
「ねえ、シキちゃ――」
「――ただいま」
普段買い物を始めたシキには話しかけないアイが、これまた珍しく声をかけた瞬間、ちりりんと可愛らしい鈴の音と遠慮がちな扉の開く音が新しい来訪を告げた。控えめながらも穏やかな声が響く。
双子もシキも反射的に視線をよこす。
とっさに営業スマイルを貼り付けたアイだったが、相手を確認するとすぐにそれを剥がした。
「あらサイ、早かったわね」
「雨の予報があったのに傘を忘れたから仕方なく。それより二人揃って店番だなんて珍しいね」
「俺はシキちゃんにケーキを届けにきただけだっつの」
目の前で繰り広げられる会話の応酬にシキは固まっていた。
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