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女の子らしく、ピンクにしてもいい。格好良くブルーにしてもいい。明るくするために、オレンジを使うのも楽しいかもしれない。溢れ出す色彩は巡り続けて、止まることはない。
「藤堂、廊下は走るなー」
「ごめんなさーいっ」
自然と緩む頬を引き締めることはしないで、先生に注意されても知らん顔で、ただ美術室へ続く廊下を走っていた。
なにせ、明日と明後日は完全に学校が閉鎖されてしまうのだ。今日のうちに少しでも塗っておかないと期限に絶対間に合わない。顧問の先生は普段穏やかな分、怒るとかなり怖いから大変だ。
昨日までの作品の出来を思い出しながら、藤堂シキは人気のない廊下を一目散に駆け抜ける。長年使ってすり減った靴底が硬い床を叩く音を申し訳程度に響かせた。
なんとなくみんなしてるから染めた茶色の、なんとなく流行っているから巻いた髪が揺れる。
私服校で試される服のセンスも、女の子向け雑誌の力で事なきを得た。要するに流行りものを買えばいいだけ。
化粧だって姉さんに頼み込んで教えてもらえば、人並み程度には上達する。別に抜きん出て可愛くなる必要はないから、それくらいで丁度いい。
そんな流されやすいシキがただ一つだけ譲れないもの。
それが、絵だった。
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