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開いて、硬直した。
美術室に黒い人影が、あった。
建て付けの悪い引き戸はガラガラと大きな音を立てたのに、その人影は気付かなかったのかぼんやりと絵を眺めているように見える。
おそらく男性であろうその黒い人影は、本当に真っ黒だった。
放課後の美術室は、立地条件も相まって相当暗くなる。なのに電気もつけずに佇む人影は、全身が黒ずくめだ。服だけではなく、髪の毛まで漆黒に染められている。下手をすれば暗闇に呑まれてしまいそうなほど。
ただ、袖や襟からかすかに覗く肌だけが白く浮いているのが印象的。
――う、わ。うわあ。
まさか自分以外に来る人なんていないだろう、そう思っていたシキは、予想外の展開に少しも動けずにいた。
美術部の生徒だろうか。
そんな考えが頭をよぎったけれど、すぐにそれは否定された。ほぼ毎日来ているシキが、こんなに特徴的な人を覚えていないわけがない。
それじゃあ一体、誰だろう。
少しずつ理性が戻ってきて、ようやく人影を観察する余裕が生まれた。
人影は相変わらずぼんやりと誰かの絵を見つめている。けれど誰のものかは、暗くてよく見えない。
そんなとき。
ふと、光が美術室に差した。
それが昼の間に伐採された木によって遮られていた日光が差し込んだからだとか、そんなことはどうでも良かった。
光は偶然人影と、絵を暗闇の中に浮かび上がらせた。
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