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シキの目には、一連の動作が全てスローモーションで映っていた。
「……えっ……?」
けれど唇が自分の絵に音もなく触れた瞬間、思わず驚愕の声が漏れる。
それは自分ですら気付かない小さなものだったけれど、逆に人影は敏感に聞き取ったのか、大袈裟に見えるほどびくりと肩を揺らした。
「――っ!!」
がたん、大きな音が室内に響く。
振り向いた人影はやはり男性のもので、黒い細身フレームの眼鏡の奥で、漆黒の瞳をまん丸に見開いていた。
その音にも驚いたシキは、同じく目を見開いて固まる。同じ表情を浮かべてお互いを呆然と見つめる二人は端からみれば間抜けかもしれなかった。
長いようで短い、そして妙に気まずい時間が流れる。先に動いたのは男性の方だった。
「あ、あの、その……ご、ごめん、そんなつもり、じゃっ……」
独り言にも思える声量で囁かれた言葉は、シキにはうまく意図を伝えられなかった。
そんなつもりってどんなつもり。
そう尋ねたかったシキも、どうしてか声を出せないで口をぱくぱくと開閉してばかりで。
「あの、あまりにも、この絵が……」
男性も男性で慌て過ぎて空回りしているようだった。
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