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「この色が、おい……っ!」
はっとしたように男性は口元を抑える。衝撃でずれた眼鏡を直す余裕もないらしかった。挙動不審に左右に揺れる瞳がありありと物語っている。
けれど同時にシキも余裕がなかった。金魚のように開閉を繰り返す口から絞り出したのは、いつもの自分のものとはあまりにも違う掠れた声。
「わ、わたしの絵が……?」
なんとか出た言葉も、自分でさえ何が言いたいかわからないものだった。
ただ男性には効果があったらしく、もうこれ以上は無理なんじゃないかと思うくらい目を見開いた。ああ、眼球がこぼれてしまう。
「き、君の絵っ!? ま、まま益々ごめんねっ!!」
更に挙動不審になった男性は、シキとシキの絵とを見比べてなぜか絶望したように青ざめた。
いまいち要領を得ないシキも、硬直してしまって首を傾げることさえ難しい。お互いが沈黙したことで、また妙な気まずい時間が流れた。
そして今度動いたのはシキだった。
「あ、あのっ」
「――ごめんねっ!!」
「えっ、ちょっと!」
けれどそんなシキの勇気は、全速力で横を駆け抜けていった男性のせいであえなく空振りとなる。
思わず伸ばした手は間抜けにも空を切り、シキは走り去っていく男性をただ呆然と見つめることしかできなかった。
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