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僕はお姉ちゃんと手をつないであてもなく歩いた
日も暮れかかった頃僕たちは砂浜にたどり着いた
お姉ちゃんは海を見てはしゃいでいる
生まれてからほとんど家を
出してもらえなかったお姉ちゃんは
きっと海を見るのが初めてなんだろう
いつしか家族で海水浴にいったときも
お姉ちゃんは家で留守番だった
夕暮れの海ではしゃいでるお姉ちゃんは
ほんとに楽しそうだった
夕日が反射してまるで天使のように見えた
その天使のような笑顔を見てると
このまま家になんて帰らなくていいや
と、そう思えた
その後もお姉ちゃんと水遊びをしてるうちに
辺りはすっかり暗くなって夜になってしまった
しばらく海を眺めていたお姉ちゃんは僕の手を握って
そのまま海に向かって歩き始めた
「おねえちゃん?またうみであそぶの?」
お姉ちゃんはどんどん進み
波は僕の腰あたりまで来ていた
さっきより水が冷たく感じる
「おねえちゃん、さむいよ」
水が僕の首あたりまでくると
僕は急に怖くなってきた
「おねえちゃん、もどろうよ」
僕が言ってもお姉ちゃんの耳には聞こえていない
やがて僕の背丈より水が来たとき
僕はとうとうお姉ちゃんの手を振りほどいてしまった
お姉ちゃんは寂しそうな顔で僕を見ていたけど
それ以上僕を連れて行こうとはしなかった
ただいつものようにほほえんで僕を見ていた
そして僕がお姉ちゃんを見たのはそれが最後だった
気がつくと僕は病院にいた
お父さんとお母さんが心配そうに僕を見ている
「どうして一人で海になんて行ったの!」
そう言って僕を怒鳴った
「ひとりじゃないよ、おねえちゃんがいっしょだもん」
僕が言うと両親はそれ以上怒ることもなく
不思議そうな顔をして僕を見ていた
そのまま僕が家に帰ると
お姉ちゃんの部屋は跡形もなく消えていた
部屋だけじゃない
服も写真も靴もお姉ちゃんの物は何一つなかった
でも庭を見ると盛り上がった土の上に
ひまわりの芽が一本だけ生えていた
大人になった今でも
僕はひまわりの花を見ると
お姉ちゃんのことを思い出す
優しかったお姉ちゃん
笑顔がすてきだったお姉ちゃん
でもお姉ちゃんは永遠に年を取らないから
いつしか僕の方が年上になってしまったね
それでもまだ弟で居させてくれるかな
今度もしお姉ちゃんにに会えるのなら
今度こそもうその手を離さないから
約束だよ?
お姉ちゃん
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