新天地

3/11
前へ
/487ページ
次へ
「黙れ」 「・・・・・・」  後方の奴は一蹴されたようだった。  実に、二時間くらいだろうか、そのくらいで学校案内は終わった。  そのあとは、教室に戻り、色々と持ち帰らなければならない物や、自己紹介という入学式終了後の豊富なバリエーションが待っている。  この全てをかい摘まんでもいいから、早く家に帰してくれないのだろうか? 「それでは自己紹介を始める。出席番号順に」  着々と自己紹介は行われている。ただ、皆の自己紹介は、『名前+よろしく』という方程式が成り立っている。 「津川亮佑、よろしく」  考えている内に番が来ていた。何も思い浮かぶ物は無かった。 「辻沢久志、よろしく」  辻沢もあの方程式が成り立った。逆に言えば皆、早く帰りたいだけなのだろう。でも形は・・・・・・という事だろう。  そしてテキトーな事を考えていると、誰かが話し掛けてきた。 「お前、双木中の出身だろ?」  小声で、辻沢の隣に座っている男子が、話し掛けてきた。  何故、俺が双木中学校の卒業生という事を知っているのだろうか。「スパイだろ?」 「いや、質問と回答が成立しないのは何故か聞きたいところだが、そうなんだろ?」 「まあ、そうだけど。お前もか?」 「俺は双葉中学校だ。お前とは戦った事があるぞ」 「練習試合か?」 「いや、公式戦だ」  どうやら、あいつのことだ。遠藤恭平を中心に投手力の高い、あの中学。双葉出身の抑え投手の黒澤だ。 「守護神の黒澤か!?」 「あぁ、もちろん覚えているさ。辻沢!」  なるほど、強敵が右隣に居たとは知らなかった。公式戦の双葉とは三対零で負けた。悔しい思い出が蘇ってきたところ自己紹介は終わった「解散」  二文字でホームルームは終わり、皆は帰る支度をしていた。俺はまだ帰るつもりではない。野球部を見学しに行くつもりだ。
/487ページ

最初のコメントを投稿しよう!

144人が本棚に入れています
本棚に追加