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「悪いな、長居しちまって。」
時刻は午後八時。外はすでに真っ暗だ。
俺個人としては、もう少し紫と一緒に居たかったが、そろそろ咲那も帰ってきてるだろう。あいつを一人で家においておくのは、色んな意味で怖いからな。
「こんな家でよかったら、また来てください。」
紫は微笑みながらそう言った。言われなくてもそうするよ。
「じゃあ、また明日学校で。」
そう言って家に帰ろうとしたとき、
「あっ、ちょっと待ってください。」
後ろから紫が声をかけてきた。
「ん? 忘れ───」
物でもあったか? と言おうと思ったが、口を何か柔らかいもので塞がれて言えなかった。
それが紫の唇だと気づくのに数秒、その行為がキスだと気づくのにさらに数秒かかってしまった。
「フフ、ファーストキス、捧げちゃいました。」
ちょっと顔を赤らめてそう言った紫。
「お、俺だって初めてだよ……」
でも、よかった。ファーストキスを紫に捧げれて。
「ありがとうございます。これも霧崎さんのおかげです。」
……何でここで隼人の名が出てくるんだ?
「霧崎さんなんですよ。いろいろとわたしにアドバイスくださったの。」
……あいつ……俺だけじゃなくて紫にも……何だかんだ言っても、やっぱり最高の親友だぜ、あいつは。
「そっか、なら帰ったらお礼のメールでもしとくか。
それじゃ、また明日。」
「そうですね、また明日。」
そう言い残し、名残惜しいが高坂家をあとにした。
空は曇り。嬉しさが圧倒的に多かったが、何だか嫌な予感がした。
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