Chapter6

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 午後十時半。いくら何でも遅すぎるだろう。外はめちゃくちゃ雨降ってるし、少し心配になってきた。 「電話してみるか。」  そう呟き携帯を手に取る。と、ほとんど同じタイミングで、玄関のドアが開いた音がした。何だ、ようやく帰ってきたか。俺は玄関まで出迎えに行った。  そして……嫌な予感が……的中してしまった……  咲那はびしょ濡れだった。髪の毛や指先から雫が滴っている。  その雫が透明だったなら、俺はタオルを取りに走っただろう。  もし、その雫が透明意外なら? もし、その雫が赤かったら?  その『もし』が的中してしまった。 「ただいま、お兄ちゃん。」  いつもと変わらぬ笑顔でそう言う咲那。  しかし、変わらないのは笑顔だけ。家を出る前まで純白だった服は真っ赤に染まり、右手には妖しく光る刃があった。 「お、おおおま、お前、そ、その右手のそれって。」  恐怖からだろう。口がうまく回らない。身体も全く動かない。 「ん? あぁ、これね。ちょっと邪魔なものがあったからぶったぎってきたの。」  しかし、咲那はいつもと変わらぬ緩やかな口調で淡々と答えていく。  ……ちょっとまて。ぶったぎった? 一体何を? 邪魔な何かだろ? その邪魔な何かって?  あの荷物の大きさだ、きっとキャンプとかに行ってたんだろ? そこで出た熊か何かと殺りあったんだろ?  『そんな訳がない』本能がそう告げてくる。だが信じたくない。だから俺は訊く。 「い、一体、な、なな、何をぶったぎったって言うんだよ。」  やめろ、その答えを訊くんじゃねぇ。その答えはきっと……
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