第三章

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《5月10日_PM12:25》 昼休みということもあり、廊下には多くの生徒達が行き交っている。 そんな中を、早足で駆け抜けて行く一人の女子の姿がある。 魅惑の巨乳娘―――佐々木遥は、異常なほど緊張していた。 (じ、時間経つの早いよ!まだ心の準備できてないし!) 決意を持って登校はしたが、時間が経過するにつれ、遥は緊張が抑え切れなかったのだ。 それでも遥の足は、自らの身体を中庭へと真っ直ぐに運んでいく。 (…そうだよ、決めたんだ。今日は逃げない、絶対に) 決意を新たに固めたところで、遥は『新山と友達になるぞ大作戦』を見直す。 (みんなからの助言をまとめたら、無理矢理にでもココアの話題を持ち出せば完璧らしいケド…) 遥は不安に思っているが、雄太と親しい人間には分かる。 それが、全く隙の無い超完璧な作戦であると。 しかし、その事は遥も理解できていた。 遥が相談をした相手には、雄太と同じクラスの女子もいる。 勿論、雄太と友達程度の関わりはあるそうだ。 雄太と会話した事も無い自分なんかより、よっぽど信頼できる相手。 そもそも、スタートラインに立ってすらいない自分と比べる事自体が間違いだと、遥は自覚している。 (…でも、やっぱり悔しかった) 自分が得た客観的事実の新山雄太より、友達の話す新山雄太の方が、ずっと現実味があった。 (悔しいから、今日は諦めないよ) 今度ばかりは、自分の五感全てで新山雄太という人間を感じる。 次々と固まっていく決意のおかげで、遥の心には、緊張も恐れも存在しなくなっていた。 もうすぐ、中庭のベンチに座る神様が見えてくる。 校舎から眺めるだけの毎日には、終わりを告げるのだ。 新山雄太の姿が見えた事で少し緊張が戻るが、今の遥は冷静なまま。 しっかりと作戦を頭に思い浮かべ、また一つ歩みを進めた瞬間――― 遥の頭から、作戦の内容が一切合切吹き飛んだ。
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