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【カカシ夢小説第1章「憐」】
「おはよ、白雪ちゃん。あら、お墓参り?」
引き戸の鍵を閉め
日傘を開き、花を抱え
白雪は振り返った。
向かいの店のおばさんがほうきで軒先を掃除していた。
白雪は軽く会釈した。
「おはようございます。
えぇ…今日彼の命日で…。もう10年になるの…。」
おばさんはほうきの手を止め、涙ぐんだ。
「そう…月日がたつのは早いねぇ。憐さんが亡くなって…そんなになるのかい……。」
白雪は頷く。
そう……
あの人が居なくなって…
10年………
いろんな人が彼を愛した…。
たくさんの人に、
愛された人…。
墓地への道を歩いているとたくさんの人が白雪に声を掛けた。
里でも小さいながらずらっと店が並んでいるこの一角はまるで皆が家族のようだった。
憐は本当にこの街の人々に愛されていた。
明るく優しい憐の人柄を象徴している。
たくさんの戦死者の名前が刻まれた墓の前に到着し一人一人を思い
白雪は静かに手を合わせる。
最後に刻まれた名前を見て、
白雪は切なく微笑む。
「憐…。」
憐の名が刻まれた墓前に既に花が置かれていた。
-若くして散った、
私の愛する人……。
白雪は墓に刻まれたその名を細く長い指でなぞる。
-翡翠憐-ひすいれん
享年23-
まだ10年前のまま…
時が止まり、
まだ白雪は憐を愛していた。
白雪は泣き崩れる。
「憐…………」
暖かい風が吹き抜ける。
まるでそれは白雪を抱きしめるように…。
カカシもまたオビトの名前が刻まれた墓の前で手を合わせていた。
「また来るよ…」
うちはオビト……
カカシもまた長い指でその名をなぞる。
帰り道、
歩くカカシの背中に暖かい風が吹き抜けた。
ふと右側に広がる墓地に目をやった。
たくさんの花に囲まれた墓地の前で泣き崩れる女性が居た…。
その女性のあまりの美しさにカカシは吸い込まれたように足を止めた。
そう…、
全ての運命は
この瞬間から
静かに動き出していた。
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