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柴山は未だ呆然としている。もしかしたら、男性で化粧もしてない人がこんなにも綺麗だから、悔しい思いをしてるのかもしれない。
「さあ、もうそろそろ吉崎くんも出てくる頃だし、僕も仕事に戻らないといけないし」
本当だ。壁に掛けられている時計を見ると、既に結構な時間が経っていた。
「すいません、なんか手間取らせちゃって。会計お願いします。ほら、柴山」
「ふえ? なに?」
「なにじゃねえよ。互いの分を払うってさっき決めただろうが」
「えっ、あっ、そうだったっけ?」
そうだったっけだと? それはとぼけたフリをして、全額俺に支払わせる作戦か?
始めに割り勘と言って安心させたのもわざとだとしたら、相当な策士だなお前。
だが、見た限りでは本気で呆気にとられているらしい。いや、ショックだったのはわかるけどそこまでか? まあ、今回は見逃してやる。
「そっちの彼女……柴山くんは大丈夫?」
「あー……大丈夫だと思いたいですけど。いいです、お金は後で要求するんで会計進めちゃってください」
わかった、と店長は笑顔で告げると、俺のカルボナーラ代と柴山のハンバーグ代を請求してきた。二人分で千円しないとか、この店大丈夫なのか?
「ありがとうございました。また、来るの待ってるから。例の件もよろしく」
その店長の言葉を最後に、柴山を半ば引っ張るようにして俺は波乱の店を出た。
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