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「ねえねえ神流ちゃん、あれなに?」
「どれよ? あー、あれはね──」
「おーい、ちょっと待てーい」
レストラン『Abba』を出た俺たちは、しばらくしてやって来た神流と合流し、賑やかな繁華街へと繰り出した。
私服に着替えた神流は、黒い長ズボンに淡い青の長袖シャツを着て袖をまくっている。髪は、いつも通りの髪型に戻っていた。どうやらポニーテールは仕事の時だけらしい。残念だ。なにが残念って、とにかく残念だ。
「あっちは? あっちはなに?」
「ちょっと、落ち着きなさいよ。あっちは──」
「オーケー、ひとまず俺の話を聞こうか、ってだから待てってばー」
午前中よりも強くなった日差し、それに伴い心なしか増えた人混みの中を歩いていると実感するね。そう、俺たちは賑わう街へと繰り出したんだ。
そこまではよかった。
序盤こそ三人で喋りながら練り歩いていたのだが、段々と柴山と神流が俺の前を歩くようになり、今では完全に俺を忘れて楽しんでいる。忘れ去られすぎた俺が道中、『八木下直人の存在意義について』などという、アイデンティティの核心に迫るものを考えてしまう程の忘れようなのだから相当だ。
ガールズトークを展開する二人を後ろから眺めていると、本当に仲が良くなったんだと感じる。まあ、仲が悪いよりかは何百倍も何千倍もましだが。
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