星に願いを

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 その時、あの写真屋さんのおじいさんがやって来た。一眼レフのカメラを持って 「ずいぶん賑やかですねぇ」 とニコニコしている。 「皆で並んだ方がいいですか?」  門番がそう尋ねたのだけれど、おじいさんは首を横に振った。 「いえいえ、そのままで。皆さん、とっても楽しそうないい笑顔をしてますよ」  そう言って、おじいさんはカメラであちこちを回り、たくさんの写真を撮ってくれた。  あたしと門番のツーショット。少し緊張していたのもあって、ぎこちなくピースサインをして映った。あたしが思わず、おじいさんに 「あの、それ…!あとで焼き増しして一枚下さい」 と頼んでしまったのは、無理もない。だって、何気に初めて二人で撮った写真だったのだ。  他にもたくさん写真を撮った。チャイニーズマフィアの帽子屋が、まるで銃を突きつけるかのように花火を王に向け、王がおっかなびっくり怯えている様子。  キャタピラが煙草を吸うように、長い花火を唇にくわえる横顔。  三月ウサギが女の子をナンパするように、美人のチェシャ猫の肩を抱いている所。  きりりと黒のチャイナドレスを着こなすドードーと、ゆるゆると緑の中華服を着た眠りネズミの正反対の二人組み。  鮮やかな赤の花火を持った女王と、白の花火を持った白ウサギが、背中合わせでポーズを決める写真。  どれもすごく楽しいワンシーンだ。 (来年もこうやって皆で過ごせますように、なんて気が早いかな?)  でもそう思えるくらい、幸せな夜だ。きっと織姫と彦星も、幸せな逢瀬に違いない。  夏はこれから。まだまだ始まったばかり。きっとこの夏も、たくさんの思い出が出来るだろう。  ちなみに後日 「あの紫色のチャイナドレスを着た美人は誰だったのか?」 という話題で校内はもちきりだったのだけれど、その正体は、あたし達、不思議の国クラブの部員だけの内緒。  あぁ、チェシャ猫のためにも 「来年は部員、全員の衣装をきちんとそろえられますように!」 って書くんだった。ごめんね、チェシャ猫! The END P,s 皆の願い事が、叶いますように!
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