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すると、今度は三月ウサギはオレの目の前にしゃがんで
「なー、チェシャ猫。来週、なんかイベントだって」
とそのチラシを突き出してくる。
「なンだよ。近すぎて見えないって」
顔を離して見ると
(ミスコン…?)
そんな文字が躍っている。でも、オレはそういうことに、あんまり興味ない。イベントだかなんだか知らないが、何の目的もなく、知らない人と騒ぐなんて無理。
「面倒くさそう。オレもパス」
(大体、ミスコンなら学園祭でやっただろうに)
そう思いながら、オレはダイナと遊ぶことに意識を戻した。
「なんだよ、ノリ悪いなぁ」
三月ウサギは、オレンジ色の明るい髪をがしがしと掻きながら、詰まらなさそうに唇を尖らせた。
三月ウサギは、寂しがり屋だ。そんな感じは全然しないし、明るいけど、でも人が騒いでるのを見るのが好きだし、彼自身もお祭り騒ぎに突っ込んでいく方だ。そうやって人のいる場所を無意識に好む、そういうトコがある。
でもオレは正反対なタイプ。身内ならいいけど、知らないヤツとなんか騒げない。
そういう意味で、オレにとっては、この部室は過ごしやすい場所だ。身内しかいないし、それでいて別にベタベタしない。何をしてても誰も文句は言わないし、自由でいられる。
前はただの人数調整で部にいるようなものだった。オレが不思議の国クラブに入ったのなんて、たまたまクラスメイトだった眠りネズミが、帽子屋に詐欺みたいなやり方で騙されて入ると言ってしまったからで、付き添いみたいな感覚だったのだ。
でも、アリスが入って来てから、不思議の国クラブはちょっと変わった。部室も広くなったし、部員が集まるようになって、部員全員でアルバイトをしただけでなく、学園祭にまで参加してしまった。
正直、オレは部員同士で仲良くするなんてごめんだったし、面倒くさいと思っていた。でも、それがやって見たら案外楽しかったのも事実だ。
まぁ、それはちょっとオレの気が向いただけで、今のオレはイベント部開催のミスコンなんかには興味はない。
今のオレの興味は、ダイナと遊ぶことにある。でも、肝心のダイナの方は、オレより先に飽きてしまったらしかった。ふい、と横を向いたかと思うと、今度は毛布ですやすや眠っている眠りネズミへと近付き、もぞもぞと丸くなって眠ってしまった。
「ちぇ…つまンねえの」
オレは一つあくびをして、大きく伸びをした。
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