猫とコルセット

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 帽子屋は真顔で首を横に振ったが、オレは目だけじゃなく、耳もいい。 「いやいやいや、言ったよね?」 「言ったか?」  帽子屋はまたもすっとぼけて、隣のアリスを見た。アリスはビクッとして視線を挙動不審に動かし、どうにか誤魔化そうとしたようだが、オレが 「アリス。素直に言わないと、大声でアリスの恥ずかしいこと、バラす」 と脅してやった。  アリスの恥ずかしいことなんか、オレが知ってるわけがない。だが、その台詞にアリスは顔を赤くし 「え…?え…?」 と慌て始めた。 「いいの?バラすよ」  オレが彼女を睨むと、後ろで門番が溜め息を吐くのが聞こえた。 「こら、チェシャ猫。アリスを脅すのはやめろ」 と門番。 「だって帽子屋サンとアリスが、なんかオレに隠してるんだよ」  オレがそう言うと、門番は本を置いて立ち上がり、こちらに近寄って来た。 「帽子屋。今度は何を企んでるんだ。アリスまで巻き込んで」  門番は、帽子屋サンと一緒にこの部を立ち上げた創設メンバーのうちの一人だ。帽子屋サンと真正面から渡り合えるのは、門番とキャタピラだけだろう。  流石の帽子屋サンも門番にそう言われては言い逃れが出来ないのか、ついに観念したように肩をすくめた。 「ミスコンに応募したのさ」 「ミスコン?」  門番が眉をひそめる。 「ミミミ、ミスコン?!」  驚いたのはオレだ。 「そうとも、ミスコンだ。イベント部が企画したらしい。知らないか?」  帽子屋は悪びれもせずに言った。  知らないも何も、ついさっき、三月ウサギがチラシを持って来たばかりだ。オレは思わず席を立ち、三月ウサギの胸倉をつかんでしまった。  女の子とのデートの予定でも確認していたのか、スケジュール帳とにらめっこしていた三月ウサギは 「何だよ?!」 と目をまん丸にしたが、オレはガクガクとその胸倉を揺すった。 「さっきのチラシは?!イベント部からもらったやつ…!」 「ちょ、揺らすな…っ 分かった、出すから!」  三月ウサギはポケットの中から、折り畳まれたチラシを引っ張り出して差し出した。
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