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帽子屋サンだって、顔は悪くない。それなりのドレスか何かを着せて、長い黒髪のウィッグでもかぶせて、化粧でもすれば…
(まぁ、似合わなくは…)
想像したオレが馬鹿だった。いくら見た目を綺麗に飾ったところで、ドレスの上に乗っかってる顔が、ものすごく不機嫌な帽子屋サンの顔だと思うと、なんだか身震いがする。
(ダメだ。帽子屋サンはないな)
オレは頭の中から、不気味すぎる帽子屋サンの女装姿を打ち消した。
(どうにかしないとな)
このままでは、あの七夕の時の流れで、オレに票が集まりかねない。オレはパパッと頭を働かせ、女王サマの元へ行った。
お気に入りの赤いソファでマニキュアを塗っている女王サマへと声を掛ける。
「ねぇねぇ、女王サマ。ちょっと話があるンだけど」
「あら、チェシャ猫。珍しいじゃない、改まって。何よ?」
女王サマが顔を上げ、首をかしげる。オレは女王様の隣に腰掛け、声を少しひそめて言った。
「今度のミスターコンテスト、どう思う?」
「楽しそうでいいんじゃない?あたし、パーティー大好きよ」
「そういうことじゃなくて。誰に投票するか決めた?」
その質問に、女王サマは黒目を上向け、それからオレを見た。
「チェシャ猫でいいんじゃない?」
「……っ」
当たり前のように言われて、ぐっと言葉に詰まってしまった。ここで
(嫌だよ)
というのは簡単だ。だが、女王サマはそんな正攻法でどうにかなる相手じゃない。別方向から攻めなくては。
女王サマのウィークポイントはリサーチ済みだ。オレは何気ない風を装って
「オレ的には、白ウサギがいいんじゃないかなと思うんだけど」
と言ってみた。女王サマの頭の中にはその考えはなかったのか
「白ウサギ?うーん、まぁ、なしじゃないとは思うけど」
と、曖昧な答えが返って来た。そんなのは想定の範囲内。
「そう、白ウサギ。似合うと思わない?オレよりあいつのが背は低いし、華奢だしさ」
「まぁ、そうね。背は低い」
オレは女王サマの耳元に唇を寄せて、悪魔の囁きを口にした。
「女王サマ、興味あるンでしょ?見てみたいと思わない?あいつの超可愛い格好」
好奇心は猫をも殺す、ということわざがある。しかし好奇心に勝てる人間などいなのだ。それが例え、女王サマであったとしても。
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