猫とコルセット

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(よ、予想外…)  オレが愕然として、その場で間抜けに口をはくはくと開閉させていると、白ウサギは横目にちらりとオレを見て、こう言った。 「ツメが甘いですよ、チェシャ猫」 「……!」  白ウサギの腹は思った以上に黒くて、オレは言葉も出なかった。 (あぁ、畜生)  このままでは、あまりに形勢が不利すぎる。どうにか出来るものなら、どうにかしたい気持ちで一杯だったのだが、無情にも女王サマは部員全員に 「白ウサギには投票するな」 という命令を出してしまった。  やがて部の顧問であるダッチェスが 「あらあら、まぁ、何か投票をするの?」 とふわふわした声で言いながら、部室にやって来た。  帽子屋サンががたりと席を立つ。 「そう。我が部から、ミスターコンテストへの参加者を決めようと思ってな。部員は全員いるな?」  部員11人に、王がそれぞれ紙を配った。 「名前を書いたら、ダッチェスに渡す。開票はダッチェスの仕事だ。不正がないように」  帽子屋の説明があり、それぞれがその紙に部員の名前を一人、書き込み始める。  オレは宣言通り、三月ウサギに一票入れてやり、紙をダッチェスに手渡しに行った。  もう後は祈るしかない。 (あー、絶対やりたくない)  そんなことを思っていると、アリスがこっそり話しかけに来た。 「チェシャ猫、ごめんね。あの、アルバムのこと…無断で写真売ったりして」 「もういいよ。大体、あれは帽子屋サンの案なンでしょ?」  オレが聞くと、アリスはどこかしょんぼりとしたように 「そうだけど…あたしも共犯っていうか、チェシャ猫にあのこと黙ってたわけだし、」 「ねぇ、アリス」  オレはアリスの言葉をさえぎって言った。 「悪いと思ってンなら、せめてこの投票、オレには入れないでよ。それで許してあげる」  オレが言うと、アリスはこくりと頷いた。 「こんなことになったのも元々帽子屋のせいだし、帽子屋に入れといた」 「うげ、帽子屋サンの女装なんか見たいの、アリス」  オレがふざけて舌を出して見せると、彼女はようやく小さく笑ってくれた。 「もう、チェシャ猫ってば。そんなの見たいわけないでしょ」  そんなことを話しているうちに、全員分の票が集まったらしい。ダッチェスが 「じゃぁ、開票しまぁす」 と中央で手を挙げた。
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