猫とコルセット

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 女物の服を着るのだって十分恥ずかしいのに、立ち居振る舞いなんて身につけたくない。だが、帽子屋サンは 「何、遠慮することはない」 と不気味なくらい、にっこりと笑む。 「……っ」  ゾクッと寒気が走って、オレは思わず逃げ出しそうになった。が、それをガシッと三月ウサギに止められる。 「ちょ、離せ、三月ウサギ!」 「いいじゃん。磨き上げてもらえよ」  三月ウサギが、ニッと笑う。  キャタピラはそれを見て肩をすくめた。 「往生際が悪いな。チェシャ猫もあきらめなさいよ。私がドレスのデザイン考えてあげるから」 「考えてあげるって…オレ、頼んでない!」  オレはぶんぶんと頭を横に振ったのだが、それを聞いたダッチェスはふわふわと笑み 「じゃぁ、私がドレス作ってあげるわね」 と言う。 「い、いらない、いらない!ドレスなんて、」  オレは思わずそう言った後、ハッとして口をつぐんだ。ダッチェスが 「いらない…?」 と本気でショックを受けたという顔で、オレを見たからだ。 「いや…あの、」  そういう顔には弱い。オレは思わず 「…いります」 と言ってしまった。 「そう?じゃぁ、とびっきり可愛いのを作るわね」  ダッチェスは、心から嬉しそうにそう微笑んだ。 (天然って、怖い)  オレはそう思わずにはいられなかった。  それからが酷かった。  ドレスのサイズを測らなくてはならないからと、三月ウサギに押さえつけられたまま、眠りネズミにメジャーで身長や胴回り、腕や脚の長さを測られた。  キャタピラは 「とりあえずチェシャ猫をデッサンしないと、ドレスのデザインも思い浮かばないから」 と言ってオレを椅子に座らせ、画用紙を広げ出す。  そこで大人しく座っているのだって大変なのに 「こら。座り方がレディーらしくないわよ」 と女王サマには怒られ、その横では帽子屋サンが 「立ち居振る舞い、マナー、しゃべり方。お前にはこれから五日間で覚えてもらわなくちゃならないことが山ほどあるんだ。叩き込むぞ」 などと言い出す始末だ。  味方だと思っていたアリスまで、オレに同情するような目を向け 「あたしにも出来ることがあったら、手伝うからね」 と言う。 「はは…ははは…」  オレは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
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